イジワル御曹司のギャップに参ってます!
やっぱりそうだ。彼は勉強熱心な人なんだ。

なんだか嬉しくなってきて、頬がじわりじわりと綻んでくるのがわかった。

彼の仕事は機械のように合理化されていて、感情に左右されることもなく、無機質に形作られるものなのかも知れない。
だが、彼は自分の中のテンプレートを増やす作業に努力を惜しまない。
他者が経験したたくさんの手法や結果を飲み込んで、全て自分の中に情報として蓄積しているんだ。
こんなに分厚いファイルが、写真と殴り書きで真っ黒に埋まるまで。
だからこそ、彼は冷静に仕事と向き合うことができる。自信を持って正しい判断を下すことができる。
これを情熱と言わずしてなんと呼ぶ。

氷川は、私に可愛いげがないと言ったことを前言撤回してくれた。
それなら――

「私も前言撤回しなきゃ」

彼のシャツを握る手に、ぎゅっと力がこもった。

「熱意がないなんて言ってごめん。あなたは誰よりも仕事に情熱を持っていたんだね」


氷川の瞳が揺れて、珍しく目に見えて狼狽した。

「……えっと」

気まずそうに髪をかき上げながら、視線を横へ逸らす。

「褒めてもらえるのは嬉しいんだけど――」

戸惑い、言葉に迷う彼に、私は首を傾げた。
褒められることには慣れていないのだろうか。気恥ずかしそうにしている彼は、いつもの大人びた印象とは違って、年相応の男の子に見える。
なんだかちょっと、微笑ましい。

暖かい気持ちで見守る私に。
彼が、不意に手を伸ばした。

「――潤んだ瞳でそんなにじっと見つめられたら、本当に襲ってしまうよ?」

「え?」
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