イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「……隣に座ってもいい?」

「何故?」

「な、なぜって……」
ここは普通「良いですよ」って言うところじゃないのか。予想外の答えにちょっとだけ戸惑いながら
「は、話がしたいからだけど……」
おずおずと彼に近づき、二人分くらいのスペースを開けて氷川の横に座った。
横長のベンチの端と端。距離感は完全に他人同士だ。

氷川は私と全く目を合わせようとせず、不自然に遠くを見つめたまま、不機嫌極まりない声で呟いた。

「私のことが『大嫌い』なんじゃなかったんですか」

「へ?」

思わず素っ頓狂な声を上げて彼を見た。
『大嫌い』とは――市ヶ谷くんに私たちの関係を疑われたとき、咄嗟に私が口走ったアレのことだろうか。

「ひょっとして、気にしてた?」

「……」

氷川は私を睨みつけたあと、コーヒーの缶の口に噛み付きながら悔しそうに口元を隠した。

「面と向かって大嫌いと言われて、傷つかない人間がいますか」

ちょっと掠れたその声は、手負いの獣のようで、鋭い牙を持ちながらも弱々しく、今にも崩れ落ちそうだった。
どうせ感情のない機械人間の氷川だから何を言っても気にしないのだろうと、高を括っていた節がある。
軽く口走ってしまったその一言で、彼の心をどれだけ抉ったのか――さすがに申し訳なく感じた。

「ごめん……あれは市ヶ谷くんの手前で……」

「そんなに市ヶ谷くんが大事なら、二人仲良く恋人ごっこをしていたらいい」

「そんなつもりじゃ……」
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