イジワル御曹司のギャップに参ってます!
氷川はごく自然な仕草で眼鏡を取った。
その下には、少し柔らかくなった瞳。
艶やかな唇が私の耳元に近づいてきて吐息を溢す。一瞬私は呼吸が止まった。

「仕事のためでかまわない。一日だけ、俺とデートの真似事をして欲しい。あなたにしか頼めないんだ。お願い」

そっと私の耳から唇を離して、困ったように微笑を浮かべた。
愁いを帯びた仕草で首を傾げ「ね?」と懇願する。
いいえだなんて、言えるわけがなかった。

こくりと頷いてしまった私に、彼は頬を綻ばせた。

「良かった。楽しみにしてるよ」

そう言い残し、彼は呆然とする私を残し立ち去る。
廊下の奥で、彼が眼鏡をかけ直すのが見えた。


反則だろぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉ!!


私が断れないのをいいことに、いちいち眼鏡を取って甘えてくるなんて!
分かっててやっているのだろうか。だとしたらなんて姑息なやつ!
断れない私も私だけどっ!

廊下のど真ん中でただ一人、なんとも言えない無念さを抱えて立ち尽くすのだった。
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