イジワル御曹司のギャップに参ってます!
第五章 私と彼の初めての共同作業・後編



「あ、あの氷川さん……?」

市ヶ谷くんと青山さんをジェットコースターの行列に置いて、さっさと抜け出してきた私たち。
二人の姿が見えなくなったところで、私は氷川に声をかけた。

「もういいでしょう」

氷川はそう言い放ち、眼鏡を外す。
まるでこのタイミングを今か今かと待ちわびていたかのように、両手を上へ高らかに伸ばし、気持ち良さそうに伸びをする。

「あーやっと解放された! こんなところに来てまで真面目な上司やらせないでよ、まったく」

気だるげに目をしばたかせる。眼鏡をかけていたときよりも大きく感じられる麗美な瞳が瞬いた。

『流星』だ。

今日初めて会ったかのようにドキリと緊張が走って、思わず胸の前で両手を握りしめた。

緊張する私の様子を見てニッと微笑んだ流星が、一歩、私のもとに近づいてくる。

余計に身を硬くする私。
そんな私を面白がってでもいるかのように、流星はまた一歩、私との距離を縮める。
仲良く肩が並んだところで、胸元でがっちりと組まれた私の手にそっと触れる。
まるで、怯えた私の心を解きほぐすかのように、右手の指の緊張をひとつずつ解いて、代わりに自分の指をきゅっと絡めた。

「やっと二人になれた。さ、行こうか」

大輪の笑顔を咲かせて、流星が私の手を引いた。
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