好きという感情に気づけたなら
『…いっ…や』
三桜は膝に顔を埋めてくぐもった声で反抗した。
『大丈夫、私はあなたの声を初めて聞いた。顔も名前も…あなたの事何も知らないの。知っているのは泣いていること。それにきっと苦しんでるってこと』
その声は決して同情しているような声色ではなく、ほんとにそうなんでしょ?と言ってるような力強さがあった。
『それにあなたも私のこと知らないでしょ?知らないからこそ助けられる。知らないから知りたいと思える』
いつの間にか泣くことも忘れてその言葉をただ聞いていた。
『私におまじないをかけさせて?』
ドアの向こうから優しいけど明るい声が聴こえる。
三桜はドアに背中を預けながらゆっくりと立ち上がった。
その時にトトっ、と足音がして声の主がドアから離れたのが分かった。
不安で鼓動が速くなる。震える手で鍵をカチャ、と外した。
ドアが開くと、見たことの無い女子生徒がそこにいた。
目が合うと、彼女は少し目を細めて微笑んだ。
そして次の瞬間、
『おまじない』
とつぶやくと
彼女の顔がぐんと近づいてーーーーー
頬に柔らかいものがそっと触れた。