本音
「…逃げ出したかった…
あんたとの結婚生活…
あんたは狡い男や…
私の両親や叔父の前では、イイコの仮面を被り、私を幸せにしょうとしている思いを演じた。

あくまでも演技やのにね…

さすがやね…
将来有望な商社の営業マンは…

すっかりみんなを騙した。

結婚生活の多少の不満は、私の我儘からとでも言いたい様に仕向けた。

見栄を張って買ったこのマンションが、
その象徴とでも言いたい様にな。

あんたとの冷めた関係で築く生活に、
温かさなんて感じなかった。

ただ、あんたが出張や付き合いで家を空ける時、安らぎの場でもあった。

窓から見える東京タワーの灯りを眺めていた。

それが唯一の慰めやった。

厭な夫やけど、この景色が成功の証だと思ったんよ…

いつまでこの冷めた空気を吸って生きるんやろあ…って絶望して、こっちが死にたくなったわ。

でも、我慢はするもんやね!

こんなに大きな幸せがやって来るなんて…

石の上にも三年とは言うけど、五年堪えただけあったわ。

神様に感謝しないと。

この景色も象徴も私だけのもの。

これからは、あんたの影に怯えずに自由に生きてゆける。

そう、自由なんや!」
< 9 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop