『ココロ彩る恋』を貴方と……
「兵藤さんとこの仕事はどう?順調?困っていることは無いかい?」


どうやら父親ばりに心配して掛けてきたらしい。
ほ…っと息を潜めて吐き、「大丈夫です」と返事する。


「ちょっと風変わりな人だけど優しいから助かってます」


夕食のことを思い浮かべながら話した。

森元所長さんは「そうか。なら安心だ」と言い、「次の1ヶ月もよろしく頼むね」と言ってくれた。


「はいっ!頑張ります」


「それから明日は給料日だから、いつものように銀行の方に振り込んでおくよ。明細書はいつでもいいから受け取りにおいで」


「はいっ。また伺います」


「待ってるよ」と言い残してから電話を切った。

森元所長さんは、私にとって甘いお父さんみたいな存在。


「実の父親なんかよりも余程有難い人だよ」


……実の父親のことなんか忘れた。

私が生まれて3歳にもならない頃、母以外の女の人と家を出て行ってしまったから。


母はその頃から変わっていった。

私を家に置き去りにして、何日も帰ってこないことが多くなった。



「クシュ!」


ブルッと背筋の冷える思いを感じて、裸だった…と気づく。風邪を引いては大変…と、脱衣所の方へ戻る。


子供の頃は裸でいさされたこともあった。

雪の散らつく日にベランダに置かれたままで、母は男と出かけて行ったことだってあった。


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