『ココロ彩る恋』を貴方と……
劣悪な思い出とその後の優良な思い出。彼の胸の中に巡るのは、どっちに近いのだろうか。


「また近づいてみるか」


これまでも時々遊び半分のような気持ちで近づいてみた。

その度に反応はなくて、「映らない」と言った彼の言葉も頷けるような気もした。

ーーでも、いつまでもそれを仕方ないと思いたくない。

彼の目に映って、一人の女性として認めてもらうんだ。


「ひ・ょ・う・ど・う・さん」


区切って名前を呼んだからって、目線が私を捉える訳ではない。


(わかってる。ちょっと可愛子ぶりたかっただけよ)


やってる自分が一番虚しさを感じている。

仕方ないから目の前でユラユラと手を動かしてみたけれど、心も頭もここに在らずな彼に、そんなアクションを起こしたって無駄なこと。


(よーし、それなら)


最接近して鼻先がぶつかりそうなくらいまで近づく。

こうして間近に彼の顔を見るのは何度目だろうか。

頬にキスをされた時と首筋に口付けられた時とを含めて3度目?


(見れば見る程綺麗な目だな〜〜)


白目は光の当たる角度で青っぽさがくるくると変わる。

濃い茶色の目の中心は黒さが増して、放射状に広がる筋の様なものまでがハッキリと見える。

その瞳に確かに写っているのは私。

でも、周りの風景の一部にしか写ってないんだ、きっと……


< 107 / 260 >

この作品をシェア

pagetop