『ココロ彩る恋』を貴方と……
横にいる人の声は届いてないみたいで、兵藤さんは真剣な表情を崩さない。


「あ……す、少しだけなら……」


お腹が空いている感覚はない。多分、食べても吞み込みにくいからすぐに欲しくなくなる。


(でも、私の為に作ってくれたんなら食べないと……)


粗末にしてはいけないと教えられた。

心も食事も同じだと言われた。


「満仲さん無理しなくていいのよ。昂さんが作ったお粥、真っ白いだけなんだから」


非難する河井さんの声も無視して、兵藤さんはお粥の入っている鍋の蓋を開けた。

ふわっと盛り上がった丸い湯気が部屋中にばらけて消えていく。


小さな器に入っているのは真っ白いだけのお粥。

節の太い長い指の彼が、慣れない手つきでよそって見せてくれた。


「はい」


見せられたお粥はトロトロに煮上がっていた。

米の形は崩れてしまい、お粥というよりも重湯に近い感じがする。


(起き上がりたいけど…体が動かせないし……どうしようか……)


もぞもぞと背中を揺らす私に気づき、兵藤さんが器を持ったまま寄ってきた。


「そのままでいいよ。口を開けて」


湯気の立つ中にスプーンを入れて差し出す。

信じられない行動に驚きながら目を河井さんに向けたら、意味深な笑みを返された。


(言うこと聞いておけ…というの?)


弱りながら開けられるだけの大きさで口を開けてみた。

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