『ココロ彩る恋』を貴方と……
隔たりのある二人の過去がどんなに美しい色で塗られていても、現在にはただ闇が広がっているだけ。

闇の中でしか生きれない彼女は、これからも美しい涙だけを流して、憤りも悲しみも全て自分が背負い込んでいく。

……あの絵のように兵藤さんも寂しげな目をして生きていくんだろうか。彩さんのこと以外は何も考えず、何も生み出そうともしないで……。


(命があるのに勿体なく生きていくつもり?闇だけを見て、光を探そうとはしないの?)


そんな悲しい人生を送らないで欲しいと願う。もっと周りに目を向けて欲しい……。


自分と母の世界しか知らなかった子供の頃の私と同じく、深みにはまったような彼の心。

その隙間に僅かでもいいから差し込む光になりたい。見返りはいらないから、彼の心を照らしてやりたい。


(お爺ちゃんがそうしてくれたように、私もそこから始めるんだ)


強引に闇から救い出そうとせず、ただ月明かりのように彼を見守る。

一瞬だけでもいいから彼の目に留まる。誰だろうかと意識してもらわなくてもいけど、ほっ…と安心させてやりたい。

生きているんだ…と、彼が実感できればいい。


(私が貰ったものを兵藤さんに返そう……)


彩さんのように生き甲斐になれるとは思わない。

急に亡くなってしまった人を思わずに生きていけるほど、人は強くもなれない。


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