『ココロ彩る恋』を貴方と……
(凄い……)


下絵だけしか見ていない時は、ここまでアクティブに動くとは思っていなかった。

小学生の頃に作った記憶のある版画とは、一味も二味も違う。


(プロの仕事ってこうなんだ…)


家に帰ると断りに来ただけなのに、それも忘れて見入っていた。

一心不乱に重石を動かしている人は、隅々までも細かく丁寧に押さえつけている。

殆どの作品は一枚刷りだと記事には書かれてあったから、インクが掠れたりムラが無いかも確認しているんだろう。


その手がピタリと止まり、ゴクン…と唾を呑んだ。

紙ごと板の両端に手をかけた人が、ゆっくりと上下をひっくり返し、上になった紙の方を剥がし始める。

端から空気の入った紙は、中央部分を窪ませながら捲られていく。

完全に板から離された後は、インクの付いた面を上にして作業台に置かれた。



(どんな色?)


爪先立ちをして台の上を見守る。期待はしていなかったけれど、やはり暗い色合いに気落ちする。

闇みたいな群青色。やっぱり兵藤さんの心の中には、まだ暗いものが立ち込めている……。


あの暗闇の中に明るさを取り戻せるだろうか。

最初は一点のような光でもいいから、跡を残していきたいけれど……。


(どうしよう。話しかけてもいいかな)


でき上がった作品の四隅に重石を乗せている兵藤さんに近づいた。

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