『ココロ彩る恋』を貴方と……
出来上がったばかりの群青色の世界で、彼女は神々しく微笑んでいた。


一瞬だけしか見れなかった。

涙を流してばかりの絵しか記憶に残ってなかったからだ。



(あんな風に笑ってたんだ……)


目を伏せたモデルは俯き加減に微笑み、今にも語りだしそうな口元をしていた。


あの小さな唇で兵藤さんの名前を呼んでいたんだ。

最後に声にした言葉は、一体何だったのだろうか……




「……はっ!駄目駄目!!」


すぐに思考がそっちへ流れる。

何も知ろうとしないと決めたばかりのくせに、どうしてそんなことばかり気にする。


「とにかく掃除をしよう!そして洗濯物を干そう!」


今日は気温も上がると天気予報が言っていた。短い時間でもいいから日に干して、お日様の匂いを吸収させておこう。


バラバラにされた新聞紙を日付ごとにまとめてたたむ。

このいい加減な読み方は彼の癖なのか、はたまた読む気もないからこんな感じなってしまうのか。


「どうでもいいけど、ばら撒くのは止そうよ」


最初から思っていたことだけど、やっぱり兵藤さんは変な人だ。



「でも、人一倍優しいってわかったよね」


呟きながら思い返すのは昨日の茶碗蒸しの味。

食欲も湧かない私に食べさせようと、彼が考えてくれた物だ。



「嬉しかったな……」


きゅんと胸の奥が鳴り響く。

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