『ココロ彩る恋』を貴方と……
マスクを通して挨拶した。くぐもった声に反応して、雇い主の方も返してくる。


「…おはよう」


何気ない日常会話。なのに、相手を想う気持ちがあるというだけで特別な気がする。


「…風邪は?」


心配そうな顔をして見せた。


「大丈夫です。もう熱もありません」


マスクは念の為にしているだけだと教えた。兵藤さんはそれを聞いて、少し安心した様な顔つきになった。


「昨日の茶碗蒸し、美味しかったです。あれを食べてすぐに家で休みました。お陰で今日はもう平気!」


左手をぎゅっと握って笑った。元気そうにしておかないと、この人の思考が暗くなってはいけない。



「……良かった」


見下ろしている目が私のことを見ている。

この間とは違う雰囲気を覚え、きゅん…と胸が切なくなった。



「お食事にしますか?」


気持ちを切り替えるように聞いた。この人とは距離を置くんだと、決めたばかりだった。


「ああ、そうだね。…良ければ満仲さんも一緒にどうぞ」


「えっ…」


「栄養は摂らないといけないよ。風邪は治り始めが肝心だから」


そう言いながら「赤い物を食べよう」とリクエストをしている。「赤」イコール「元気の源」とでも思っているのか。


「トマトリゾットとかいいな。あれなら消化もいいし美味い」


「あ…そ、そうですね。作ります」

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