『ココロ彩る恋』を貴方と……
「具は沢山入れなくていいよ。君のお腹が消化しやすい物にすればいい」


「えっ…」


「あれこれ一度に食べて、嘔吐したらいけないだろう?」


「はっ…」


「茶碗蒸しもそう思って具なしにしたんだけど」


(ウソ…!)


聞いてた言葉を思わず頭の中で否定した。

単色志向の兵藤さんが、私のことを考えて具なしの茶碗蒸しを作った!?


(まさか、本当に…?)


一体何が起こっているんだろうか。

昨日といい今日といい、兵藤さんがおかしい。



「あ…あの、兵藤さんっ!」


焦って声をかける。

私よりも先にキッチン方面へ歩きだした人が、「ん?」と不思議そうに振り向いた。


「熱とか、ないですか?」


額を指差して尋ねると、自分の掌を当てて首を横に振る。


「ないけど」


首を小さく傾げながら答えられた。

その口元が微かに緩んでいる気がして、気のせいではないかと考えた。



「そ、そうですか。じゃあ、お食事作ってきます」


手にしていた掃除道具をリビングの入り口に立て掛け部屋を出る。

兵藤さんの脇をすり抜けて行きながら、ドキドキと弾む鼓動を耳にしていた。



(兵藤さんが、お爺ちゃんと同じ気持ちで茶碗蒸しを作った……)


私の体調を気にして具なしにしてくれた。自分が単色志向だからじゃなく、私のことを考えてーーー



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