『ココロ彩る恋』を貴方と……
「何か…って、何もないですよ」


冷や汗みたいなものを背中に感じつつ答えると、女性は「うーん…」と唸る様な声を漏らした。


「私共の方も理由は何も聞いておりませんが、先月の終わりに本人から連絡があったんです。来月の契約最終日を最後にして欲しい…と」


「先月の終わりに?」


何があっただろうかと思い返す。

その頃は個展の準備に追われ、昼夜を問わず作品を仕上げていたと思うのだが……。


(彼女が風邪を引いた頃か。あの時、何かあっただろうか……)



「あっ…!」


頭に浮かんだことを思い出して、声が飛び出た。


「えっ…?」


女性の目が俺の方に注がれる。


「…いや、何でもないです」


慌てて否定する。

あの時は単に洗濯をしてやっただけだ。なのに、それが原因で交代を望んだりはしないだろうと思う。


(そりゃあ、中には下着も入ってたけど……)


可愛いらしい下着だなとは思った。大人が身に付けるにしては子供らしいなと考えながら、洗濯ネットに入れた記憶がある。


(あれが原因か?…いや、もしかしたらあっちの事かもしれない……)


思い浮かべるといろんな失態が繰り返されている。その全てに耐えきれず、交代を申し出たのだろうか。


(そんな馬鹿な。今更だろう)


初日から結構な失敗をやらかしている。愛想を尽かしてやめるのなら、もっと早い段階でも良かった筈だ。



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