『ココロ彩る恋』を貴方と……
「いい大人なんですけど、小さな頃のトラウマのせいで、大きな声や怒鳴り声に対しての過敏反応が起こるんです」


「過敏反応？」


信じられない言葉を聞いた。

俺の失態のせいで、彼女から何度か声を上げられたことはあったけど、それが原因でこの家をやめようと思ったのだろうか。


「そのトラウマというのは何か教えてもらってもいいですか？」


原因を追究したくて尋ねた。

森元と名乗る女性は、困った様子を見せながらも唇を動かした。


「私の口から言ってもいいのかどうか知りませんが、紫音ちゃんは小さい頃、お母さんから相当に酷い扱いを受けていたそうなんです。

育児放棄と言いますか、食事もろくに与えられず、暴行なんかも加えられたりして。

隣に住んでいた方が、冬の寒い日にベランダで踞っている彼女を見つけて保護されて以来、お母さんのお父さん、つまりお爺ちゃんに引き取られて育ったそうです」


怒鳴り声や大きな声を聞くと、幼い頃の記憶を思い出して混乱が起こる。それで本来は、あまり外で働ける状態ではないのだそうだ。


「人と話すのが苦手だと言ってました。見た目は明るくしてますけど、とても疲れ易くて繊細な子なんです」


振り返った障子を眺め、女性はフッと笑みを見せた。


「この障子の張り替えのことも、何故こんな感じに貼ったかを言ってないんでしょうね……」



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