『ココロ彩る恋』を貴方と……
甘えるだけ甘やかして育てたのだろうと思います。何せ母親からは放棄され、父親からも幼い頃に捨てられたそうですから……」


いろんな意味で、両親から見放されて育ったんです…と、女性は言葉を締め括った。


その言葉と美しい色に貼られた障子戸に、大きな格差を覚えた。



「…そんな悲しい過去を背負っているようには見えませんでしたが……」


俺の言葉に振り返り、女性は小さく微笑む。


「人一倍気を使って見せないようにするところがあるんです。自分には辛い事もあったけど、全部お爺ちゃんが帳消しにしてくれた…と言ってました。

だから表向きは明るく見せていても、心の内は色々と抱え込んで暗かったんじゃないかと思います」



「……そうだったんですか…」


この家で働いていた姿を思い出していた。

彼女がこの家で働いていることが、俺の中では当たり前になりかけていたのにーーー。



「……兵藤さんって、有名な版画家なんでしょう?この間、テレビで特集番組が組まれていましたものね」


女性は場の雰囲気を変えるよう、明るく話し始めた。

返す言葉に詰まり目を向けると、フッと笑みを浮かべて笑いかけられた。


「先日、展覧会を観に夫と行って来ましたの。最後の作品を観て、あれはもしかしたら…って話したことがあって……」


言いかけて睨んでいた俺の視線に気がついたらしい。


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