『ココロ彩る恋』を貴方と……
聞き返すと、兵藤さんはボソッと『俺じゃない人が』と呟く。
はぁ？と耳を傾ける私には、そんな呟きなどを間に受けてもいられない事情があった。

前の契約が切れたのが１週間ほど前で、次の契約が早く決まらないと、すぐに食いっぱぐれてしまう。


（冗談じゃないよ。雇ってくれなきゃ恨んでやるから！）


心の中に般若の面をしまって微笑む。


『いつから参りましょうか？』


意識して柔かな笑みを作り上げてから聞いた。
兵藤さんは困ったように顔を背け、それでも来るなとは言わないでいる。
『穏やかな性格』と新聞記事に書いてあった通り、半ば仕方なさそうな息を吐いて囁いた。



『…じゃ明日からお願いします』


ラッキー！と小躍りしたくなるのを抑えて礼をした。


『よろしくお願いします！』


……力強い挨拶も加えて。


ーーーーーーーーーーー



「生きてくってツライわね〜〜」


食器を洗い終えてリビングの掃除に戻る。
兵藤さんの姿が見えないところを見ると、また別の部屋を散らかしているか、昼寝でもしているかなのだろう。


「どんな有名人でも蓋を開けるとこんなもんよね」


バサバサと床に散らばった新聞紙を拾い上げて日付通りにまとめていく。
さっき足を滑らせる原因ともなった記事の続きを見つけ、後から読ませてもらおうと別の場所に置いた。


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