『ココロ彩る恋』を貴方と……
「頭にきてどうしたの?」


まるでカウンセラーのように優しく聞き返される。


「カッとして…足を振り上げてしまいました……頭の中が真っ白になって……お腹の中がグラグラと煮え返って……」


言い訳にしか過ぎないけど、意味もなくやったことではない。


「その足で蹴ったの?」


驚いた顔で聞く。その問いかけに頭を大きく横に振った。


「蹴ってないってことは、何もしてないんしょう?」


河井さんは私の行動を冷静に判断した。でも、私はその行動自体が恐ろしかった。


「お婆ちゃんは悲鳴を上げてました……警察を呼ぼうとしていて………私はどうすればいいのかわからなくなって……走って部屋を飛び出してきて……」


何も持たずに出てしまった。
家政婦の仕事もしないで抜け出してしまった。


「あそこには帰れない……協会にも迷惑をかけてしまう……っ…」


嗚咽を漏らしながら話す私を、河合さんは神妙な顔つきで見ていた。

話をしている間もずっと体を擦り続けて、温め続けてくれた。


ノックの音がしてドアが開いた。

河井さんは立ち上がり、飲み物の置かれたトレイを受け取りながら相手の女性に指示した。


「昂さんに連絡を取って。貴方が待っていた人が来たから…って」


その声にビクッとして振り向いた。
河井さんはドアを閉め、私の所へ戻ろうとしている。


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