『ココロ彩る恋』を貴方と……
条件反射のように立ち上がった。走って逃げようとする私の体を制し、河井さんが引き止めた。


「待って!何処へ行くの!?」


腕を引っ張った拍子にカップの中身が溢れる。

「あっ!」と河井さんは小さく叫び、私をソファに押し戻した。


「とにかくこれを飲んで体を温めないと!」


カップの中身はココアだった。甘い香りが鼻の奥に広がっていく。


「少し溢れたからお皿ごと持って飲んで。そのうち昂さんも来るから」


「河井さん…私は…」


「あの人は貴女をずっと待ってたのよ。普段はそんなに足を運ばないのに、毎日此処へ来てたんだから!」


怒ったように声を上げた。その言葉に驚き、彼女の顔を眺めた。


「…どうして?」


持たされたカップを倒さないように握らされた。

その温もりを感じながら、河井さんの顔を見つめる。


「いいからそれを飲んでからにしましょう。今話さなくても昂さんの絵を見ればわかるわ」


ココアを飲むように勧めた。


「でも、チケットが……」


言い訳がましく拒否する。


「そんな物なくてもいいのよ。あれは貴女に観せたい絵があるから渡しただけなの」


ただの口実だと言うと、飲みなさいと再度ココアを勧める。


仕様がない思いを抱えたまま、私はカップを手で持ち上げた。

冷えきってた指先に感覚が戻り始め、カップの温もりがじんわり…と伝わってくる。


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