『ココロ彩る恋』を貴方と……
革命児の彼は変な人
仕事を終えてワンルームのアパートへ帰った私が一番最初にやり始めたことは、昼間見つけた兵藤さんの記事を読み返すことだった。

『版画界の革命児』と評された新聞記事。どうやら彼は、巷でそう呼ばれているらしい。


『兵藤昂(ひょうどう あきら)さん。彼は新進気鋭の若手版画家である』


「…ふーん、そうなのね〜」


おばさんくさく声を漏らした。
記事によれば兵藤さんの版画はかなりイケてる感じで、いろんな所から個展のオファーが届くんだそうだ。


「そんな有名人なんだ……」


知らなかったなぁ…と言葉を吐きつつ続きを眺めると、彼の版画は独特な製法が取られていて、先ずは土台になる紙に美しいカラーが塗られていく。

その紙の上に木版で描かれた絵が暗い色調で押され、版を取り除いた後に現れてくる画全体は、まるで影絵の様にも見えるんだと書かれてあった。


『土台に塗られた美しい色調が台無しになるのではありませんか?と聞くと、彼は困った様な笑みを浮かべ、「それが狙いですから」と答えた。
明るい色彩の中に浮かび上がってくる陰が彼の狙うものだとするならば、それは正しく的確に表現されていることになる』


書かれてある記事の内容から察するに、不思議な仕上がりの絵らしい。


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