『ココロ彩る恋』を貴方と……
カラカラに乾いていた唇にカップの端を付けると、鼻の下辺りが湿気を帯びた。

鼻腔に甘い香りが漂い広がって、それを奥に吸い込んでから息を吐いて口を付けた。

舌の上にザラつくようなパウダーの感覚を残してココアが喉へ送り込まれていく。

甘い香りと温かさを含んだままで、胃の方へとが拡がっていった。



「……美味しい…」


ホッとして呟くと、河井さんの顔が綻ぶ。
その表情を確かめて、ゆっくりとココアを味わった。


飲み終わる頃には体の芯も温まってきた。
寒さで凝り固まっていた指先も熱を取り戻していた。



「動けそうなら立って。絵を観に行きましょう」


先に立ち上がった人が手を差し伸べてくる。
真っ白な指先を眺め、乗せるべきなのかどうか躊躇いつつも手のひらを握った。



「……こっちよ」


事務所を出た後、さっきの出入り口の方へ向かう。


「今日は最終日だから早目に閉めたの。これから展示物を外す予定だったんだけど、少しの間このままでいるわ」


ゆっくり観ていいから…と囁き、暗くなった展示コーナーへと導く。


「今回のテーマは『闇の中から』というの。前回の個展が『鎮魂』で闇一色だったから、そこから外の世界を見たという設定ね」


ごゆっくり…と言うと、自分は側を離れる。

取り残された私は戸惑い、照明の落とされた展示コーナーへと向かった。


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