『ココロ彩る恋』を貴方と……
最初のコーナーを曲がると、見たことのある絵が掛けられてあった。


『鎮魂歌(レクイエム)』


新聞記事に印刷されていた絵だ。

向かい風の中に佇む彩さんが両手で花束を持っている。頬には涙の粒が光り、持っている花はバラだった。



(赤い涙……)


それはまるで血の雫のように見えた。

事故のことを何も知らない人が見たら、きっとどうして赤いのだろう…と不思議がることだろう。

絵の中の彩さんは、どす黒いブラックで表現されていた。

赤の下絵の上に黒が乗ることで、生々しい血のようにも見えてしまう。


(これは……事故に直面した時の兵藤さんの心情だ……)


お祝いにと買った花束を持って、彼を迎えようとしていたんだろうか。

その花束ごと事故に遭って、花も彼女も還らなくなってしまった……。



バラは輪郭だけが彫られ、花弁は全部真っ黒に塗られている。

黒と血の様な赤。兵藤さんの心の闇は、その二色から始まっていった。



締め付けられるような胸の痛みを感じながら次の絵に進んだ。


下絵の色はグレーとホワイト。

花冠を付けた彩さんが、胸の上で手を組んでいる。


『永遠の眠り姫』


タイトル通り、棺桶の様な枠の中で眠る女性。

涙こそ流していないけど、瞼は固く閉じられていた。


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