『ココロ彩る恋』を貴方と……
「……大丈夫。君は悪くなんてない……」


深い声で囁いた。
その言葉を聞いたら、思い出したくもないことが溢れ返ってきた……。



「………私……」


堪えることができなくて涙が頬を伝い始める。一番古い記憶の蓋が緩んで、それが声になって現れた。


「子供の頃にお父さんが逃げて……お母さんと2人きりにされたの……。お母さんは私のせいだと言いだして……叩いたり、蹴ったりしてきた……。
止める人もいなくて…逃げ出すこともできなくて怖かった。
お腹も毎日空いてた。……フラフラで動けないことも多くて……なのに……誰も助けてくれなくて………」


元より助けて欲しいとも言い出せなかった。
母の目が怖くて、他人と目を合わすのも恐ろしかった。


「お爺ちゃんに引き取られてからも怖くて……作ってくれた物を…食べていいのかどうかがわからなかった……。
食べるとお母さんに叱られそうで…何処かで見てるんじゃないかと思うと…手を出せなかった……」


置き去りにされたのに母が来るのを待ち続けていた。
自分は捨てられたんじゃないと、心の何処かで信じたかった。


「お爺ちゃんは優しくて……一口でいいから食べてごらんって言ったんです……。
食べても誰も怒らない。命は形を変えて皿の中にいるんだから…食べた方が喜ぶと言ってくれた……」



「…うん…」


話を聞いていた人の手が髪の毛に触れた。優しく撫でながら、口元をきゅっと噛みしめる。


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