『ココロ彩る恋』を貴方と……
最後にお婆ちゃんを見舞ってから家を出た。
自分のコートを羽織り、結局使わなかったチケットが入ったバッグを手にする。


「次は君の部屋に行こう」


協会への断りは明日にしたらいいと言われ応じた。
兵藤さんの運転する車に揺られながら、自分が独りで住んでいるアパートを目指す。



「さっき……」


運転中の彼が呟き、視線を送った。
横目でこっちを見遣った相手は、真っ直ぐと前に向き直った。


「……いや、いい……」


何が言いたかったのか知らないけど、その後は終始無言のままだった。
お婆ちゃんの家を出てから20分後、2階建てのボロアパートに到着した。


「どうもありがとうございました」


お礼を言って出ようとしたら、ぐぃっと腕を引っ張られた。


「待って。どういう意味?」


「えっ…どういうって、部屋に帰るんですよ」


あまりに真剣な顔だから胸の音が騒がしくなる。


「さっき画廊で言ったろ。一緒に住んでくれる?って」


「い…言いましたけど…」


まさか今夜から…という意味ではないよね。


「それに君も応じたよ」


「は…はい。応じました…」


それは今夜からとか思ってなかったので。


「だったら、ありがとうは変だろう。これから同じ家に戻るのに」


「えっ……」


「当面の手荷物だけ持っておいで。その間待っておく」


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