『ココロ彩る恋』を貴方と……
「今夜は贅沢に卵でも落とすか」


仕事帰りにスーパーへ寄ったら、10個パックが安売りしてあった。
L玉1個あたりが20円そこそこなら底値だと言ってもいいだろう。


コン!と殻を流しにぶつけて凹みの中に落とす。
卵を割るのは幼い頃から手慣れていて、片手でも十分にできる。


「慣れって怖いね〜〜」


沸騰してきた電気ポットが切れるのを待ってお湯を注ぐ。
漂ってきたチキンスープの香りに鼻をひくつかせながら蓋をして、3分ほど待つことになった。


「他にも何か作る?」


自分に聞きながら「ううん」と答える。


「卵一個で十分な栄養補給になるからやめよ」


野菜は翌朝にジュースを飲めばいいし、炭水化物もパンを齧れば補える。
今夜はこれと頂き物の梨でも食べておこう。
部屋に帰ってきた時にドアノブに引っ掛けられていた梨の袋。
所長の奥さんが電話を掛けてきて、「食べてね」と言ってくれた。


「ありがたいな〜〜」


皮を剥いて切った梨を皿に入れ、湯気の立ち上るラーメンを前に手を合わせる。


「いただきます」


掌同士をぎゅうと押し付け合ってから離して箸を持つ。
ラーメンというものは何がいいって、食べ終えるのが早いから助かる。
食べてしまったら何をするのも自由になるし、洗い物が少ないから疲れていれば早く眠れる。


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