『ココロ彩る恋』を貴方と……
「あ…りがとうございます」


何というか、そんなことをしていたのか。


食事の後片付けが済んで、退勤前に和室へと寄った。

窓際の壁に寄っ掛かるように置かれた障子戸が二枚、和紙が綺麗に剥がされた状態で木枠だけになっている。


「さすが版画家……」


紙の扱いには慣れていると見た。剥がされた和紙が無造作に、畳の上に置かれてあるのは頂けないけど。


「プッ!」


それでも一生懸命になって剥がしてくれたんだろうなと思う。

木枠は糊も綺麗に拭かれているし、これならいつでも新しい糊が乗せられそうだ。


「ここまでのことされたんじゃ、許すしかないか」


支えた弾みとは言え、胸を鷲掴みにした兵頭さんの手の感触が残っていた。

初めての体験で、心底恥ずかしくて仕様がないと思ったけれどーー。


「明日も紙の整理を頑張ろう」


兵藤さんからは明日も仕事部屋に入っていいと許可をもらった。
失敗作だと言っていたあの紙が、作業台の上に残っていると有り難い。



「明日もよろしくお願いします!」


勝手口のドアに頭を下げてから外へと続く道を歩き出す。

途中まで来ると、金木犀の樹が見えて。


「……もう花の時期、終わったんだ…」


金木犀の香りは、すっかりしなくなっていた。


「あっという間だったなぁ」


そう思うと寂しくなる。


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