『ココロ彩る恋』を貴方と……
『紫音』…と嗄れた声で私の名前を呼ぶ家族と住んだ家。
兵藤さんの家と同じ、平屋建てだった。

和室ばかりがある家の中で、障子があったのは一室だけ。
仏壇が置かれた部屋にある障子の紙は、いつも家族が貼り替えていた。


『紫音、明日は紙を張り替えるからビリビリにしていいよ』


子供らしくなかった私にそう言って、遊びながら掃除することを教えてくれた。

本当はビリビリにしない方が綺麗に剥がせることをその頃の私は知らなかった。



『紫音ちゃんは子供らしく育てられたのね〜』


家政婦として勤めだしてから森元所長さんの奥さんに言われた言葉。

仕事に入った家で、障子紙を剥がす時にそのことを教えたらそう返された。


『……はい、そうなんですよ……』


その時は何だか凄く落ち込んで、気落ちしながらそう言った。

有り難さよりも辛い気持ちが湧いてきて、目の奥で涙が潤みそうだった。


「…ほらまた蓋が緩んだ!」


声に出して蓋をする。
何も考えずにいようとしても、家族に関連のある家事に直面すると思い出す。


「さっさと終わらせないと」


キビキビと指を動かしつつ、兵藤さんが起きてくるのは何時になるだろうかと考えた。

昨日は夕食を食べ終えたのがいつもより早かったせいもあり、退勤時間も早目に済んで助かった。


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