『ココロ彩る恋』を貴方と……
「……すみません。何でもないです」


頬を伝ってきた水を止めるように手の甲を押し当てた。
鼻水までが落ちそうになって、慌てて背中を向ける。


「ごめんなさい。すぐにご飯にしますから」


溢れた涙をエプロンの端っこで拭い取ろうと持ち上げた。

情けないところを見られてしまった…と、昨日とは違う恥ずかしさが沸き起こる。



「ごめん」


そう聞こえた声に驚き、「何が?」…と答えようとしたら………



(えっ…?)


何?

何が起きたの?



背中から伸びてきた腕が私の体をすっぽりと包んだ。

髪の毛が絡み付くのがわかり、同時にあったかい体温を感じる。
 


「…あ……の……」


強張りかけた体を優しく包み込んでいた人の声がした。


「ごめん。でも、今はこうさせてくれ」


苦しそうに言われて胸の奥が軋んだ。

何故だか兵藤さんが苦しそうだと、そんなふうに思った。


「いいです……けど…」


私のことを抱いているんじゃないと感じた。
この腕に抱かれても尚、彼の瞳は私のことを認識してない。



(…やっぱり私は独りなんだ……)


実感すると涙が一筋流れた。

秋の日の朝、ハイレベルな彼と初めての触れ合いらしい触れ合いだった……。



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