『ココロ彩る恋』を貴方と……
「満仲さん…?」


穏やかに名前を呼ぶ人に、はい…と言うこともできない。


(どうしよう。困った……)


本当に困っているのは私ではなく兵藤さんだと思う。

何でもいいから誤魔化して早くこの場を逃げればいいんだけなんだけど……。


(こういう時に限って、気の効いた言葉が出ないんだから……)


焦って辺りを見回してしまった。

体育館倉庫みたいな部屋は、前に紙を選別した時よりも片付いている。


(……こんな綺麗になって…河井さんが片付けたの……?)


そう思うと居たたまれなくなってしまう。少しでも早く逃げだしたくなって、急に背中を向けた。


「すみません!お邪魔しました!」


いきなり来て、帰りもいきなりになってしまう。
兵藤さんに顔向けもできなくて、告白するどころの騒ぎでもない。


「待った!」


後ろから聞こえた声の主が、引き止めるように手首を掴んだ。


「そんなに慌てると危ない!」


何かを思い出したように止める人を振り返り、きゅん…と胸の奥が軋む。


また私じゃない人を見ている。

今ここにいるのは、満仲紫音なのにーーー



「……私じゃない」


心の奥がキリキリと軋んでやれない。


「えっ…?」


「兵藤さんが見てるのは、いつも私じゃない!」


頬にキスをされた時からそれは当然のこととして理解してきた。

この人の目に映るのは自分ではなくて、雰囲気が似た別の誰かなんだって。


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