『ココロ彩る恋』を貴方と……
「私じゃないのに止めないで！」


手を引き離して走りだした。

部屋を出たら左に行かなければいけなかったのに、何も考えずにいたら作業室の方へ向かってしまった。

目の前に大きな板が見えてきて、ぶつかりそうになったから止まった。

畳２畳分はありそうな板の上に乗っているものを見て、思わずハッと息を呑み込み。


（これって……）


作業台の上には、あの日あった水玉模様の上から押された真っ黒い版画が見えた。

ベースは確かにあの綺麗なブルーの水玉模様なのに、それをまるで覆い尽くすかのように押されている。

どす黒いくらいの絵が表しているのはあの記事に載っていたモデルで、また涙を一粒零していた……。


（この女性……どうしてこんなに悲しそうなの……）


記事に載っていた版画を見た時にも同じように思った。

この世の悲しみを全て、背負いこんでいるみたいに見える……って。


（誰なの…これは）


河井さんとは別の女性。

あの素敵なシーブルーの色をこんなふうに染めてしまうなんて、これではまるで、兵藤さんの澄んだ目が汚されていくような気もする。


誰だか知らないけど、無性に許せない。

私の大好きな彼の目をこんな色に染めないで欲しいーー。


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