『ココロ彩る恋』を貴方と……
床板の軋む音で、兵藤さんが後ろから近づいてくる気配を感じた。

何度も誰かと間違えてきたのは、もしかすると、私とこのモデルの人が似ているからなのかもしれない。



「…誰なんですか?」


怒りを感じつつ振り向き、つぅ…んと鼻の奥が痛む。


「このモデルの人って誰!?」


こんなにも真っ黒い絵に変えられて、これじゃまるで、兵藤さんの心までが暗く染まっているみたい。


「私…このモデルの人が嫌い。あんな綺麗なブルーをこんな色に染めてしまうなんて……」


泣かなくてもいいのに涙が零れ落ちてしまった。

私の泣き顔を見ても、兵藤さんのリアクションは少なくて。


「この絵に文句があるなら幾ら言ってもいい。……でも、モデルを罵声するのだけは許さない」


穏やかな人柄を表すような絵だと記事には書かれてあったけど違う。


(……この絵には、兵藤さんの感情の全てが入り込んでる……)


怒りも悲しみも全てが包み込まれた色。
この黒い色には、きっとそんな意味が隠されている。


(だって、私も同じように子供の頃に感じていた色だもん。…わかるよ……)


拭いきれない怒りと悲しみを抱いて心を閉ざしてばかりいた私を癒してくれたのは、5歳の頃からずっと一緒に暮らしてくれた家族だった。

閉ざされていた闇の世界の扉を開けて、彩りのある明るい世界へと導いてくれた。


< 93 / 260 >

この作品をシェア

pagetop