『ココロ彩る恋』を貴方と……

あの頃の思い出があるからこそ、今の私はこうして生きていられる。

この世には悪いことばかりじゃないんだと、信じていられる。


同じように心を閉ざしている兵藤さんにも、光のある世界を取り戻させてあげたい。

私と同じように、心を彩らせてあげたい。


この世にはいい事がいっぱいあるんだから、もっと前を向いていいんだよって、教えてあげたい………。



「兵藤さん……」


決意を胸に名前を呼んだ。

声も返さず、睨むような眼差しを向ける人にキッパリと宣言する。


「私、何がなんでも貴方の目の中に映ってみせます」


モデルが誰だろうが知らない。

私は彼の目に映って、自分という人間を見てもらうんだ。


「目に映るって……」


戸惑うように繰り返される。


「1人の女性として見られるようになります!絶対に、そうしますっ!」


激しい怒りのようなものを抱きながら答えると、兵藤さんは一瞬だけ目を見開き、すぐにまた真顔に戻った。


「…それは難しいと思うよ。俺の目には、君は写らないと思う」


それでも。


「それでも…私の目には貴方しか映りません!だって、兵藤さんのことが好きですからっ!」


弾みのように打ち明けた。


これが始まりになればいい…と、心の底から願ったーー。



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