『ココロ彩る恋』を貴方と……
「キッパリ宣言したんだから、絶対にあの目に留まってやる!」

 
女性として認めてもらう。好きになってもらう前に、先ずはそっちを優先するんだ。


「……これでシチューは完璧。次はサラダを作ろう」


コンロの火を消し、包丁とカッティングボードを洗った。

大きな大根の下半分だけを取り出すと、幅10センチ程に切り分けるまでは容易い。

問題はここから。皮を向いて千切りにしていくんだけど……


「皮むきはいいんだって。難関なのは千切りの方」


この不器用な指先が震えるんだ。前に爪を削いでしまったこともあって、以来どうにも恐ろしくて仕方ない。


「あ〜〜怖い!ひゃ〜っ嫌い〜〜!」


こんな絶叫しながら料理をする家政婦なんて私くらいのものだろう。包丁捌きもともかくだけど、何年やっても上達しない腕。


「助けて〜〜!お爺ちゃ〜〜ん!」


つい家族の固有名詞を呼んでしまった。既に亡くなってから何年にもなるのに今更何を頼ってるんだ。


「私ってば、また」


どうしてこんな時ばかりアテにしようとするんだろうか。祖父が生きていた頃は、料理も手伝わずに遊んでばかりいたのに。


「あの時教えて貰えば良かったんだ」


料理人だった祖父は、自営の定食屋を営んでいた。

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