『ココロ彩る恋』を貴方と……
「でも1人で食べるのって寂しいんだよ」


祖父が生きていた頃も2人だけの食卓だった。

祖母は私を引き取る前に亡くなっていて、その遺骨も仏壇の側に置きっぱなしになっていた。


「そう言えば、子供の時は骨が家にあるのが怖かったっけ」


蓋を開けて思い出したことは、意外にも悲しく感じなかった。あの和室しかなかった狭い家で過ごしたことは、今でも楽しい思い出ばかりだ。


「そうだ。それで思い出した後が寂しくなるんだ」


だからこそ蓋をした。

思い出すと必ず寂しくなって涙が溢れ落ちる。

最初はどんなに面白い思い出話も、最後はあの日に戻っていってしまうからーー。



『紫音……お前はいい子だよ……』


嗄れた声の祖父の最後の言葉。それを思い出すと胸が詰まって涙に暮れる。

私という存在を肯定し、生き抜いていこうと約束させてくれた大切な言葉。


ポトン…と大根の上に涙が落ちてしまった。

思い出してはいけないものじゃない。

でも、二度と戻ってはこない日々だから。


「蓋をしよう」


今は不器用ながら料理をしているところだった。

あの謎だらけの芸術家に、「美味しい」と言われる物を作って出すんだ。


「頑張ろ」


辿々しい音を立てながら大根を千切りにしていく。

私の悲しみも寂しさも彼とシェアしていければいいのにーーー。


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