すきなのに!!
あの人がこの家にやってきたのはあたしが小学5年生のときだったから、かれこれ一緒に住んで今年で5年目に突入する。



でもあの人を‘‘母親”だなんて認めてない。





あたしのお母さんは世界に1人しかいないんだから。



心配そうな顔であたしを見るあの人はお父さんの2人目の奥さんで世間一般的に言う、あたしの母親に当たる人らしい。




「あ、麗(うらら)ちゃん寝てなかったの?」




駿くんが尋ねるとあの人はコクリと頷く。


あたしを含めてお兄ちゃんたちは彼女のことを麗ちゃんと呼ぶ。


あたしはお母さんって呼びたくないからそう呼び始めたけどお兄ちゃんたちはなんでかは知らない。


少なくともあたしと同じ理由ではないと思うけど。


麗ちゃんは28歳で自分とそう対して年が変わらない晴くんの母親やってんだから不思議な感じだ。




麗ちゃんは遠慮気味にあたしの肩に手を伸ばそうとしたけどあたしは後ろに下がった。


あぁ、なんでだ。条件反射で避けちゃう。


やっぱりあたし最低だな。



あたしが避けると麗ちゃんの薄茶色の瞳が不安げに揺れる。いつもこうだ、あたしは。




だから笑ってようと思ったのに。



せめて笑って過ごせば誰にも迷惑かけないかなって。



前に誰かに「栞ちゃんって笑ってるのに泣いてるみたいだね」って言われたのが今も耳に残ってる。




「栞ちゃん」




麗ちゃんはあたしを怒ったりしない。


いつも笑ったり泣いたりして

皆の気を引いて、

素直になんでも言えて、

ちゃんと甘え方もわかってる。



だから嫌なんだよ。





あたしがどうやったってできないことも、なんでもできちゃうんだから。



< 106 / 165 >

この作品をシェア

pagetop