すきなのに!!
「輝って酷いよね。本当に人間なのかな…」
酷い人間はこの世に何万人といるはずなのに、そんなことを真剣な顔をして呟くこの人はやっぱり変わってる。
それに俺が何も言わなくても普通に話を進めていくから変な感じ。
「…ーーりくん!…おいこら万里いいい!」
「うっわ!!な、なんだよ?!」
び、びっくりした。
声デカイからな、この人。
髪の毛先を持ち上げて俺にずいっと近づけてくる。
「バレーでストレス発散してたらさー、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃったから結び直してくんない?」
「は?」
……は?
普通、彼氏でもない男にそんなこと頼むのか?
…は?は?は?
目の前にいるこの人は手をひらひら振ってあははと笑う。
「あ、万里くんって実はぶきっちょ?だーいじょうぶだよ、絶対にあたしよりは器用だから。あはは。はい、お願いします」
「え、あ、はい」
つられて敬語で返すとこの人はケラケラ楽しそうに笑う。
それに俺、別に不器用じゃないし。
半分やけになってその髪を手に取ると、思ってたよりもふわふわしてて少したじろぐ。
言われるがままにゴムを外して髪を下ろし、この人が差し出してきたクシでその髪をゆっくり梳いていく。
「おー上手っすね万里さん」
「うるさい」
「あ、はい、すいませーん」
いちいち茶化してくるし、ほんと意味わからないし。
髪を結び終わった頃に、ポテチを口いっぱい頬張っている輝が近づいてきたから、この人は「ぷっ!」と吹き出した。
…そういうことするから喧嘩になるんじゃないの?
俺の予想通り、売られた喧嘩は買うタイプの輝がこめかみに青筋を立てて、ズカズカと歩いてきた。
「おらチビブス、俺様の顔見て吹き出すとは大した度胸だな。あっぱれだなおい」
「黙れアホチビ」
「あ''ぁん?!」
あぁ、また始まった…。