すきなのに!!
あたしが輝のシャツの袖を掴むと、輝はあからさまに嫌な顔をしてポケットからガムを取り出してそれを口にした。



「あ?ガムはあげねぇぞ」

「いらないよ!…と、トイレどこ?」

「はぁ?!」


い、いきなり叫ばないでよ!

恥ずかしいじゃないか、こんなタイミングで「ごっめーん、トイレ行きたくなっちゃった」なんて言ったら明日から颯くんにトイレ女だのKYだのいじられるに決まってる。


「大きな声出さないでってば!輝はここに来たことあるんでしょ?あたし絶対迷子になるからついてきて」



「嫌だ」




輝はバッサリそう言うと、ぷいとそっぽを向く。


だってさ、あたしだって輝に連れてってもらうなんて嫌だよ。

朋稀、理陽、颯くんは万里くんのことでいっぱいいっぱいみたいだし、夏樹くんはあたしのことナメてるらしいし?!


1番暇そうな輝しかいないんだよ。


輝をその気にさせるには、どうすれば…。



あたしはポケットを漁って何かないかと探していると、


「…あった!はい、これあげるからついてきてよ」

「あ''?ったく、物で俺が釣られるワケ……!!」



ん?どうした?

輝はあたしの手の中にある物を見て、目を見開いたもんだからあたしはギョッとして、思わず手を引っ込めた。



すると輝はあたしの腕をガシッと掴んで引っ張った。危うく前のめりになりそうだったけど、ど根性で踏ん張りました。



「な、に?」


「それ、くれんの?」




輝はあたしの手の中にある、キャンディーを顎で指し、あたしを見た。


初めてちゃんと目を合わせてくれたからちょっとドキっとする。

輝は色白だし、吊り目だけど目は大きくてまつ毛も長くて、女の子みたいに可愛い顔立ちなのに、いつも怒ってるから全部台無しだ。


瞳なんて薄茶色ですっごい綺麗なのに。




思わず見惚れていたけど、ハッとして口を開いた。

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