【完】あともう少しだけ、背伸びする。
前の席の大きく広い背中を見つめる。
あと数時間後には、誰のものでもなかったあなたが彼女だけのものになって、いずれ話せなくなるんだろうか。
いつか今の気持ちを笑い話にできるようになって、心からおめでとうと言えるようにするから。
今だけは。
あと少しだけ、背伸びをしよう。
「ヒュ~!!やるな~七瀬!!さすがイケメン!!」
「俺もイケメンで幼馴染なら、今頃付き合えたのになー!!」
「いや、お前は来世でも無理だわ!」
がははは!!と七瀬と仲のいいクラスの男子数名が七瀬を冷やかす。
あたしはその輪に入り、一緒に冷やかす。
七瀬はあたしたちに何を言ってもダメだと悟り、諦めた表情をしている。
「なんでこんな広まってんだよ…。」
「いや、バレるでしょ。だってついにビッグカップルが誕生するんだし!」
「つーか宮野もなのか…?」
「何か言ったー?…もう時間でしょ、行ってこーい。」
「なんでもねえよ!言われなくても行くし!」
七瀬は逃げるように、扉を抜けて、教室から出て行った。
なんか、七瀬らしくない…。