memory refusal,memory violence
兄
『四葉』に着いた時には日がほとんど落ちていた。冬が近づき、最近は日没の時間が随分早くなった。普通に帰っていれば、まだ日があるうちに帰ってこられるのだが、橋にいる時間分、帰りは自然と遅くなる。そもそも、私はこの『四葉』があまり好きではないから、真夏の日が長い時であっても、ここに帰ってくるのは日没間際だ。
児童養護施設『四葉児童ハウス』。通称『四葉』。ここが今の私が住んでいるところだ。私はもう七年、人生の半分をここで過ごしている。
玄関を抜け、リビングと言われている部屋に入る。ここに用があるわけではないが、ここを通らなければ自分の部屋にいけない。私はこの四葉の構造が、まるで職員によって常に束縛されているように感じて好きではない。
「あら、おかえり」
リビングに入るなり声を掛けられた。職員の今村さんだ。私は「うん」とだけ言ってリビングを抜ける。
部屋に入り、制服のままベッドに倒れこむ。
「お兄ちゃん……」
部屋に置かれた写真立ての中にいる兄に呼びかける。写真の中のお兄ちゃんは、当然返事をしてくれない。