memory refusal,memory violence

気になる人

 一体何だったのだろう。冷たくあしらったはいいものの、四葉に帰っている間も、帰ってから夕食のハンバーグを食べている時も、お風呂に入って髪を洗っている今も、あの女子高生の事が頭から離れずにいた。

「てか、めっちゃ美人だったな、くそっ」

 髪を洗う手に少しだけ力が入る。

 少し離れて横顔だけを眺めていた時から思っていた通り、いや、思っていた以上にあの女子高生は綺麗な人だった。あの不愛想な様子や言動を加味すると、妖艶という言葉が正しいだろうか。表情は豊かではなさそうだったが、元々の容姿が常人よりも逸脱している。表情なんてものが必要ないくらいにあの女子高生は普通という言葉から逸脱した美しい顔立ちをしていた。絵になる顔とでもいえばいいのだろうか。とにかくあの顔に泣きぼくろなんてズルい。

 自分の容姿は元親の遺伝子で構築されているということを除けば嫌いではない。もちろん、鏡を見れば元母親を嫌でも思い出してしまうという点では、この顔を好きにはなれないのだが、そんなものを取っ払ってしまえば正直なところ容姿に関して自信がないと言えば嘘になる。

 だが、そんな私のちょっとした自信でさえも、あの女子高生の横に立てば滑稽なものに成り下がってしまうほどに、彼女の容姿は秀でていた。

 結局その日、彼女の事が頭から離れることはなかった。よくよく考えればあれだけしか話さなかったが、あれだけの事務的ではない会話をしたのも久しぶりかもしれない。お風呂上がりにアイスを食べている間も、宿題をやっている間も、どこかで彼女の事を考えていた。ベッドに入ってからなんかは脳内が彼女で支配されてしまい、煩わしさを感じさえした。

 けれど、そう感じていたはずなに、次の日の寝起きは驚くほどにスッキリとしたものだったのだから不思議だ。
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