memory refusal,memory violence
一心二体
四葉に帰り、御状さんから貰った手紙を開く。今回も手紙の中身はもやもやぐにゃぐにゃと蠢いている。今回は前回に比べ、さほど読み取るのに時間は要らない。前回は十七年間の記憶だが、今回はほんの一週間分の記憶だ。これからは会うたびに記憶のやりとりをするわけだから、熱も出ないし、顔の筋肉痛になることはないだろう。なるのなら御状さんの方だ。
今回御状さんに渡した手紙は、私の十四年の記憶に加え、私の感情が含まれている。御状さんは感情を知らないため、感情の記号化に関しては私が考えなければならなかった。けど、今の私には不可能なことではなかった。
私は今、私であると同時に、感情を持つ御状送葉だ。その証拠の一つに、今日行われた私の苦手分野であったはずの物理の小テストが挙げられる。結果はまだ返ってきていないが、間違いなく満点であるという確信がある。それも、制限時間三十分なのに対し、私はその問題をほんの数分で解いてしまった。
これに関しては棚から牡丹餅なのだが、つまり、御状さんの記憶を擬似的ではあるが、自分の経験として蓄積することで、私は御状さんの天才的な頭脳まで手に入れたことになる。言葉通り、私は睡眠学習をしていたという事だ。
故に感情を持った私は、御状さんの知識を元に、感情を記号化することに成功していた。いや、まだ成功している訳ではない。けど、御状さんの全部を知っている私が作った『感情の記号』は間違いなく彼女に伝わるという確信がある。私は私だけど、御状送葉でもあるのだから伝わらなければおかしいのだ。
私は新しく貰った記憶を読み取り、御状送葉に近づく。より私は私になる。
御状さんと次に会ったのは、それからまた一週間が経った頃だった。最近は日に日に日中の気温が上昇しているが、夕方はまだ少しだけ肌寒い。
「こんにちは」
「そろそろ来ると思っていましたよ」
「私もです。まぁ、私は今日来るのがやっとでしたけど」
「それは何よりです」
「なんだか悪意を感じます」
「どうでしょうね」
「私も手紙を読んだ後、熱が出ました」
「私も私の全てを一気に書き込みましたから」
「顔が筋肉痛で六日も上手く話せませんでした」
「表情筋ですね」
「あなたの夢を見ました」
「それはそうでしょう」
「あの手紙に書かれたのは嘘偽りのないあなたの記憶、感情ですよね」
「私の人生を全て嘘偽りのない形で詰め込みました。今はもうあなたの記憶、感情でもあります。あなたはあなたであり、私です。二つの記憶があるというのはどんな気分ですか?」
「最初は混乱しましたよ。あなたの記憶は間違いなく手紙、夢で得たものですけど、同じ時系列に二つの記憶が存在していることに大きな違和感があります」
「私はもう慣れましたよ」
「けれど、感情があるというのはいいですね。あなたから貰った記憶は、私も気が狂いそうになりましたし、私自身の記憶でも、いろいろと価値観などを改める必要がありましたが、悪くないです。まるで魂を埋め込まれた気分です」
「それはよかったです」
「これからは二つの世界をお互い大事にしましょうね」
そう言って私の向かいにいる私はニコリと笑った。初めて見る笑顔。顔は違うし、向かいにいる私の方が元の顔が良くて、笑顔になれば破壊的だ。でも、私も自然とその笑顔につられる。
二つの歪な世界が互いに絡み合い、そして、一つになる。
私があなたであなたが私。私は私になった。
今回御状さんに渡した手紙は、私の十四年の記憶に加え、私の感情が含まれている。御状さんは感情を知らないため、感情の記号化に関しては私が考えなければならなかった。けど、今の私には不可能なことではなかった。
私は今、私であると同時に、感情を持つ御状送葉だ。その証拠の一つに、今日行われた私の苦手分野であったはずの物理の小テストが挙げられる。結果はまだ返ってきていないが、間違いなく満点であるという確信がある。それも、制限時間三十分なのに対し、私はその問題をほんの数分で解いてしまった。
これに関しては棚から牡丹餅なのだが、つまり、御状さんの記憶を擬似的ではあるが、自分の経験として蓄積することで、私は御状さんの天才的な頭脳まで手に入れたことになる。言葉通り、私は睡眠学習をしていたという事だ。
故に感情を持った私は、御状さんの知識を元に、感情を記号化することに成功していた。いや、まだ成功している訳ではない。けど、御状さんの全部を知っている私が作った『感情の記号』は間違いなく彼女に伝わるという確信がある。私は私だけど、御状送葉でもあるのだから伝わらなければおかしいのだ。
私は新しく貰った記憶を読み取り、御状送葉に近づく。より私は私になる。
御状さんと次に会ったのは、それからまた一週間が経った頃だった。最近は日に日に日中の気温が上昇しているが、夕方はまだ少しだけ肌寒い。
「こんにちは」
「そろそろ来ると思っていましたよ」
「私もです。まぁ、私は今日来るのがやっとでしたけど」
「それは何よりです」
「なんだか悪意を感じます」
「どうでしょうね」
「私も手紙を読んだ後、熱が出ました」
「私も私の全てを一気に書き込みましたから」
「顔が筋肉痛で六日も上手く話せませんでした」
「表情筋ですね」
「あなたの夢を見ました」
「それはそうでしょう」
「あの手紙に書かれたのは嘘偽りのないあなたの記憶、感情ですよね」
「私の人生を全て嘘偽りのない形で詰め込みました。今はもうあなたの記憶、感情でもあります。あなたはあなたであり、私です。二つの記憶があるというのはどんな気分ですか?」
「最初は混乱しましたよ。あなたの記憶は間違いなく手紙、夢で得たものですけど、同じ時系列に二つの記憶が存在していることに大きな違和感があります」
「私はもう慣れましたよ」
「けれど、感情があるというのはいいですね。あなたから貰った記憶は、私も気が狂いそうになりましたし、私自身の記憶でも、いろいろと価値観などを改める必要がありましたが、悪くないです。まるで魂を埋め込まれた気分です」
「それはよかったです」
「これからは二つの世界をお互い大事にしましょうね」
そう言って私の向かいにいる私はニコリと笑った。初めて見る笑顔。顔は違うし、向かいにいる私の方が元の顔が良くて、笑顔になれば破壊的だ。でも、私も自然とその笑顔につられる。
二つの歪な世界が互いに絡み合い、そして、一つになる。
私があなたであなたが私。私は私になった。