memory refusal,memory violence
友の意見
「にわかに信じらんねぇ話だな」
話をし終えると、涼人はまずこう言った。まぁ、普通の反応だろう。
「どうすればいいか分からないんだ」
「まぁ、お前の性格だったらそうなるだろうな。お前、基本的に考え過ぎてわけわかんなくなって、一人でくどくどうじうじめそめそするタイプだし」
「最近は自分でもそう思うよ……」
「綾香ちゃんに相談しただけまだ頑張った方じゃね?」
「……フォローありがとう」
涼人は気にするなと焼酎を煽りながら片手を挙げる。
「それで、涼人の意見を聞きたいんだけど?」
「まぁ、楽観主義者である俺なら答えは簡単にでるな。それをお前がやるかやらないかは別として。俺なら――」
涼人は大きく息を吐き出しながら腕を支えにして後ろにもたれた。
「初めから始める」
涼人はそう言った。
「最初から始める?」
「そう」
「どういうこと?」
「そのままの意味。だってよ、そんなことどれだけ考えても答えなんてでないだろ。その子が送葉ちゃんなのかそうでないかは、結局は伝達が決めることだ。お前がそれを認めればその子は送葉ちゃんだし、認めなければその子は送葉ちゃんじゃない」
「うん」
「でも、今のお前はどっちつかずだ。まぁ、気持ちは分かる。なら、最初から始めればいいんだ。その子が送葉ちゃんだとかそうじゃないとかは別として、新しく関係を築けばいい」
「でも、それだと送葉(仮)さんが送葉なのかそうじゃないのかって話じゃなくなる」
「んなもん、どっちだっていいだろ。その子はお前を好きなただの女の子。それでいいじゃないか。贅沢言うな。それに、その子が本当に送葉ちゃんならお前は無意識にその子を好きになるんじゃねーの?」
「それは……まぁそうかも」
確かに、送葉(仮)さんが本当に送葉だったなら、わざわざそれを証明するものがなくても、僕はきっと彼女の事が好きになる。それが証明になる。
「だろ? だったらわざわざ続きから始めようとしなくてもいいんじゃね? って俺は思うよ」
「初めから始める、かぁ」
「その子、来年うちの大学来るんでだろ?」
「うん。見学もしてた。まぁ、それはここに来るための口実だろうけど」
「じゃあ、送葉ちゃんを名乗るくらいだから余裕で受かるだろうし、その気になれば一緒に居られる時間はそれなりに作れるだろ」
「まぁ」
「それにな、絵に関しては俺も綾香ちゃんと同意見だ。絵くらいくれてやれ。形見なんていくらでもあるだろ。その棚に置いてある写真もそうだし、メールだって言ってみればそうだ。他にも探せば沢山あるだろ。別にお前のために描いたわけじゃないんだから無駄に執着するな。大事なのは忘れない事であって、物を保管することじゃないはずだろ」
確かにそうかもしれない。乃風さんは僕が持っておくべきだと言ってくれたが、それはただ、僕が一番適任だと乃風さんが判断しただけであって、義務的なものではない。僕は、ただ送葉を留めておきたいだけであって、送葉が死んでから出てきたあの絵は、送葉を僕の中で留めるために必ずしも必要なものではないのかもしれない。それに、僕が送葉(仮)さんを僕の前に現れた女の子として見ることができれば、送葉(仮)さんが描き上げた絵を見ても、僕の中の送葉は揺るがないのではないのだろうか。送葉が描いた描きかけの絵に手を加えた女の子、僕が送葉(仮)さんをそう判断すればいいだけの事だ。
「僕はつくづく自分を情けない人間だと思うよ。自分では何も決められない」
「全くだ」
涼人は送葉(仮)さんを預けられた際、今村さんから貰った煎餅を勝手に開封してバリバリと貪り(むさぼり)ながら言う。
「今も涼人の意見を聞いてその意見に納得してしちゃったよ」
「友の意見だからな。素直に受け入れるのも一つの手段だ。悪いことじゃない」
「僕は送葉(仮)さんと新しい関係を築いてみようと思うよ。なんたって人付き合いの上手い友の意見だからね」
「お前のそういうところが変に気取ってなくて好きだぜ。くどくどうじうじめそめそするくせに、気を遣ってなかなか人に相談できないところも実に人間臭くて飽きない」
「このままじゃこの先余計に困りそうだ」
「間違いねぇな」
涼人はツボに嵌ったのか腹を抱えて笑い出す。
「涼人は珍しいね」
「それは褒め言葉か?」
「まぁね」
「ならいい」
「僕たち、酔ってるのかな?」
「酔ってるな。こんなこっ恥ずかしいことは素面(しらふ)じゃ言えねぇ」
涼人はさらに豪快に笑う。つられて僕も笑う。アパートの一室に二人の笑い声が響き渡る。なんだか久しぶりに心から笑えたような気がした。
話をし終えると、涼人はまずこう言った。まぁ、普通の反応だろう。
「どうすればいいか分からないんだ」
「まぁ、お前の性格だったらそうなるだろうな。お前、基本的に考え過ぎてわけわかんなくなって、一人でくどくどうじうじめそめそするタイプだし」
「最近は自分でもそう思うよ……」
「綾香ちゃんに相談しただけまだ頑張った方じゃね?」
「……フォローありがとう」
涼人は気にするなと焼酎を煽りながら片手を挙げる。
「それで、涼人の意見を聞きたいんだけど?」
「まぁ、楽観主義者である俺なら答えは簡単にでるな。それをお前がやるかやらないかは別として。俺なら――」
涼人は大きく息を吐き出しながら腕を支えにして後ろにもたれた。
「初めから始める」
涼人はそう言った。
「最初から始める?」
「そう」
「どういうこと?」
「そのままの意味。だってよ、そんなことどれだけ考えても答えなんてでないだろ。その子が送葉ちゃんなのかそうでないかは、結局は伝達が決めることだ。お前がそれを認めればその子は送葉ちゃんだし、認めなければその子は送葉ちゃんじゃない」
「うん」
「でも、今のお前はどっちつかずだ。まぁ、気持ちは分かる。なら、最初から始めればいいんだ。その子が送葉ちゃんだとかそうじゃないとかは別として、新しく関係を築けばいい」
「でも、それだと送葉(仮)さんが送葉なのかそうじゃないのかって話じゃなくなる」
「んなもん、どっちだっていいだろ。その子はお前を好きなただの女の子。それでいいじゃないか。贅沢言うな。それに、その子が本当に送葉ちゃんならお前は無意識にその子を好きになるんじゃねーの?」
「それは……まぁそうかも」
確かに、送葉(仮)さんが本当に送葉だったなら、わざわざそれを証明するものがなくても、僕はきっと彼女の事が好きになる。それが証明になる。
「だろ? だったらわざわざ続きから始めようとしなくてもいいんじゃね? って俺は思うよ」
「初めから始める、かぁ」
「その子、来年うちの大学来るんでだろ?」
「うん。見学もしてた。まぁ、それはここに来るための口実だろうけど」
「じゃあ、送葉ちゃんを名乗るくらいだから余裕で受かるだろうし、その気になれば一緒に居られる時間はそれなりに作れるだろ」
「まぁ」
「それにな、絵に関しては俺も綾香ちゃんと同意見だ。絵くらいくれてやれ。形見なんていくらでもあるだろ。その棚に置いてある写真もそうだし、メールだって言ってみればそうだ。他にも探せば沢山あるだろ。別にお前のために描いたわけじゃないんだから無駄に執着するな。大事なのは忘れない事であって、物を保管することじゃないはずだろ」
確かにそうかもしれない。乃風さんは僕が持っておくべきだと言ってくれたが、それはただ、僕が一番適任だと乃風さんが判断しただけであって、義務的なものではない。僕は、ただ送葉を留めておきたいだけであって、送葉が死んでから出てきたあの絵は、送葉を僕の中で留めるために必ずしも必要なものではないのかもしれない。それに、僕が送葉(仮)さんを僕の前に現れた女の子として見ることができれば、送葉(仮)さんが描き上げた絵を見ても、僕の中の送葉は揺るがないのではないのだろうか。送葉が描いた描きかけの絵に手を加えた女の子、僕が送葉(仮)さんをそう判断すればいいだけの事だ。
「僕はつくづく自分を情けない人間だと思うよ。自分では何も決められない」
「全くだ」
涼人は送葉(仮)さんを預けられた際、今村さんから貰った煎餅を勝手に開封してバリバリと貪り(むさぼり)ながら言う。
「今も涼人の意見を聞いてその意見に納得してしちゃったよ」
「友の意見だからな。素直に受け入れるのも一つの手段だ。悪いことじゃない」
「僕は送葉(仮)さんと新しい関係を築いてみようと思うよ。なんたって人付き合いの上手い友の意見だからね」
「お前のそういうところが変に気取ってなくて好きだぜ。くどくどうじうじめそめそするくせに、気を遣ってなかなか人に相談できないところも実に人間臭くて飽きない」
「このままじゃこの先余計に困りそうだ」
「間違いねぇな」
涼人はツボに嵌ったのか腹を抱えて笑い出す。
「涼人は珍しいね」
「それは褒め言葉か?」
「まぁね」
「ならいい」
「僕たち、酔ってるのかな?」
「酔ってるな。こんなこっ恥ずかしいことは素面(しらふ)じゃ言えねぇ」
涼人はさらに豪快に笑う。つられて僕も笑う。アパートの一室に二人の笑い声が響き渡る。なんだか久しぶりに心から笑えたような気がした。