memory refusal,memory violence
謝罪
「今日は帰るわ」と涼人が帰り、一人になったところで僕は涼人がいる間に充電しておいたスマートフォンで電話を掛ける。コール音がしばらく続いたため、出てくれないかと思ったが、諦めようとした直前で『もしもし』と声が聞こえた。綾香だ。先日はあんな形で帰らせてしまったため、再び僕と綾香の間には溝ができてしまった、と思う。綾香の声を聴き、綾香が部屋を出る際に言った「ごめん」という悲しげな声が耳に蘇る。
僕は送葉が死んでから一歩も前に進めていなかった。送葉を僕の中で留めたいからと言って、自分までそこに停滞していいという事にはならない。分かっていたはずなのに、いつまでも一人で動けずにいた僕のせいで綾香を傷つけてしまった。涼人と話してから特にそれを痛感した。だから、僕は綾香に謝罪と自分の意思表明をすることにした。
「前は、ごめん」
返事は返ってこない。
「僕のためを思って言ってくれたのにその時は気付けなかった。でも――」
『そういうのはいいから』
綾香は僕の話を途中で遮る。少し強い口調に反して僕の声は小さくなってしまう。
「うん、ごめん」
『私、あんたほど弱くないし。あれくらいじゃ傷つかないし』
「ごめん」
『伝達がそういうのに気付くの遅いことくらい知ってるって。鈍感だから。こっちは今まで気付くの待ってたの。それで? どうするの?』
つくづく僕は周りの人に恵まれている。力強いことこの上ない。こんなに僕のことを考えてくれる人がいるのに、今までの僕はどうかしていた。
「絵は送葉(仮)さんに渡すことにするよ。もう渡しちゃってるけど。それでなんだけど、僕は送葉(仮)さんを送葉としてではなく、送葉(仮)さんとして付き合うことにする。もし彼女が本当に送葉であったとしても」
『そう』
「うん。それだけ言いたかった。ありがとう。もう大丈夫だから」
『いいよ。気にしないで』
「今度みんなでご飯でも行こう。もちろん僕のおごりで」
『じゃあお店は私が決めるから。覚悟しといてね』
「恐ろしいな……」
『あ、あと一つ。送葉(仮)さんが手紙書いてた。伝達宛てだと思う。もう届いてる?』
僕はスマートフォンを耳に当てながら玄関まで行き、ポストを確認する。中には数枚のチラシと一緒に封筒が一枚入っていた。『伝達さんへ』と書いてある。『さ』の癖字。そして封に使われている脳ちゃんのシール。中身を読まなくても一目で誰からのものか分かった。直接届けに来たのだろうか、切手も貼っていないし、郵便局の印もない。
「届いてた」
『そう、そんだけ』
「送葉(仮)さん、もう綾香の家にいないの?」
『昨日帰ったぽい。私がいない間に置手紙だけ置いていなくなってた』
「そっか。分かった」
『それじゃ、またなんかあったら相談しなよ』
「もうたぶん大丈夫だよ。道が開けた」
『あんたの事だから信用できないな~』
「僕の信用ガタ落ちだな……」
綾香が『冗談だって』と電話の向こうで笑う。綾香は電話越しだとしても、笑っている方が似合う。
僕は送葉が死んでから一歩も前に進めていなかった。送葉を僕の中で留めたいからと言って、自分までそこに停滞していいという事にはならない。分かっていたはずなのに、いつまでも一人で動けずにいた僕のせいで綾香を傷つけてしまった。涼人と話してから特にそれを痛感した。だから、僕は綾香に謝罪と自分の意思表明をすることにした。
「前は、ごめん」
返事は返ってこない。
「僕のためを思って言ってくれたのにその時は気付けなかった。でも――」
『そういうのはいいから』
綾香は僕の話を途中で遮る。少し強い口調に反して僕の声は小さくなってしまう。
「うん、ごめん」
『私、あんたほど弱くないし。あれくらいじゃ傷つかないし』
「ごめん」
『伝達がそういうのに気付くの遅いことくらい知ってるって。鈍感だから。こっちは今まで気付くの待ってたの。それで? どうするの?』
つくづく僕は周りの人に恵まれている。力強いことこの上ない。こんなに僕のことを考えてくれる人がいるのに、今までの僕はどうかしていた。
「絵は送葉(仮)さんに渡すことにするよ。もう渡しちゃってるけど。それでなんだけど、僕は送葉(仮)さんを送葉としてではなく、送葉(仮)さんとして付き合うことにする。もし彼女が本当に送葉であったとしても」
『そう』
「うん。それだけ言いたかった。ありがとう。もう大丈夫だから」
『いいよ。気にしないで』
「今度みんなでご飯でも行こう。もちろん僕のおごりで」
『じゃあお店は私が決めるから。覚悟しといてね』
「恐ろしいな……」
『あ、あと一つ。送葉(仮)さんが手紙書いてた。伝達宛てだと思う。もう届いてる?』
僕はスマートフォンを耳に当てながら玄関まで行き、ポストを確認する。中には数枚のチラシと一緒に封筒が一枚入っていた。『伝達さんへ』と書いてある。『さ』の癖字。そして封に使われている脳ちゃんのシール。中身を読まなくても一目で誰からのものか分かった。直接届けに来たのだろうか、切手も貼っていないし、郵便局の印もない。
「届いてた」
『そう、そんだけ』
「送葉(仮)さん、もう綾香の家にいないの?」
『昨日帰ったぽい。私がいない間に置手紙だけ置いていなくなってた』
「そっか。分かった」
『それじゃ、またなんかあったら相談しなよ』
「もうたぶん大丈夫だよ。道が開けた」
『あんたの事だから信用できないな~』
「僕の信用ガタ落ちだな……」
綾香が『冗談だって』と電話の向こうで笑う。綾香は電話越しだとしても、笑っている方が似合う。