ラティアの月光宝花
仲間を大切にする優しい性格、柔らかい物腰、そしてなにより、いつでもセシーリアを真正面から受け止めてくれようとする態度。

最初セシーリアは、それを勘違いしていた。

きっとオリビエも、自分を好きだと。

けれど次第に、それは違うと思い始めた。

それはオリビエが、何も語らないからだ。

だって恋って、相手を知りたいと思うのと同じくらい、自分の事だって知ってもらいたい筈でしょう?

でも、オリビエは……そうじゃない。

何一つとして、オリビエは自分というものをセシーリアに見せたりはしないのだ。

彼はセシーリアを一国の王女としか見ておらず、常に礼儀正しく卒のない態度で接する。

……この先も?

この先も私とオリビエはこのままなのだろうか。

じゃあ、私がこの想いをオリビエに告げたら?

私の思いに気づいたら、オリビエは私を一人の女としてみてくれるのだろうか。

……いや……分からない、怖い。

「セシーリア様、お約束を。今後一切、僕を振りきって何処かへ行かれなどなさらないように」

オリビエの冷たい声がセシーリアを思考の旅から連れ戻した。

「断るわ」

「セシーリア様」

オリビエが榛色の瞳に僅かに苛立ちの光を浮かべた。

セシーリアは、わざとそれを無視して言い放った。

「馬術も剣術もお前が私に敵うものは一つもない。全てにおいてお前が私の上をいくなら、何でも言うことを聞いて上げる。でも」

セシーリアは、一旦ここで言葉を切ってオリビエを見据えると、唇の端をグッと引き上げて続けた。

「私にお前が負けたなら……今後一切、私の行動に口を挟まないで」

「セシーリア様……」

セシーリアはオリビエの視線を断ち切るかのように踵を返し、その場を離れた。

縮まらないオリビエとの距離が、切なかったのだ。
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