ラティアの月光宝花
「王はただ今、第一護衛兵と共にサージアの兵を迎え討っておいでです。レイゲンドゥレイヴ様は……王をかばわれて負傷」

サージアだと?!それに、父上が……!

オリビエの脳裏に気の弱そうなシド王子の顔か浮かんだ。

「よりによってなんでサージアなんだ?!我がラティアとは不可侵条約を結んでいるだろうが!」

アンリオンが憎々しげに声を荒げ、マルケルスは出入り口に向かいながら舌打ちした。

「オリビエ。お前はセシーリアを探せ。それから王をお助けに行くぞ」

「わかった!」

オリビエの胸に愛しいセシーリアが浮かんだ。


*****


オリビエ……早く回復したらいいのだけれど……。

部屋に戻ったセシーリアは、側付きの世話係が差し出したネクタルを一口だけ飲んで小さく息をついた。

それから寝台に横たわると眼を閉じて今日の出来事を思い浮かべる。

カリム皇帝の、あの顔。

お父様が結婚を断った時のカリム皇帝のあの顔からは、憎悪からくる怒りがありありと滲み出ていた。

このままでは済ますまいとでも言いたいような、あの射るような眼差し。

セシーリアもイシード帝国の強大な国力は理解していた。

ただ正直国政には疎い。

政治や軍事はロー・ラティア国王を筆頭にオリビエ、マルケルス、それにアンリオンの父親を含む有能な部下達が王の側近として力を合わせて取り仕切っており、 その息子達の世代はまだまだそれらに携わるような身分ではない。
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