ラティアの月光宝花

ラティアの悲劇

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オリビエは必死でセシーリアを探した。

張り出し陣の方向……城の中央門のすぐ近くから立ち上る黒煙が見えて、思わず歯軋りをする。

門塔のラッパ隊がそれを鳴らす間もなくサージア帝国の兵に殺された事を予想して、オリビエは胸が潰れる思いがした。

きっと誰もが予想していなかったに違いない。

なんといってもセシーリアの記念すべき誕生大祭典が終わった直後だったのだ。

しかも攻め込んできたのは、数時間前までここで国賓としてセシーリアの成人を祝い、酒を酌み交わした相手である。

これほどの屈辱があるだろうか。

「オリビエ殿!城内には既に敵が!お気を付けて!」

頷いて走り出すも、入り乱れる兵と使用人がオリビエの行く手を阻む。

「気を付けろーっ!サージアの兵が我が近衛兵に化けているぞ!よく見ろーっ!女は建物の中に逃げろ!他のものは武器を手に城を守れーっ!」

怒号が響き、オリビエは斬り込んでくる近衛兵をスティーダで迎え討った。

どうやらサージアの兵士が我が国の近衛兵のマントを身に付けているらしい。

よく見ると盾も剣もラティアのものではないが赤いマントばかりに眼がいく。

混乱を更に深めるには十分だった。

「セシーリア!セシーリア、何処だ?!」

神殿の方向に走りながらオリビエはセシーリアの名を叫んだが、ハタと立ち止まると瞬時に考えた。

……セシーリアが真っ先に駆け付けるとしたらそれは……セシーリアの母であるアイリス・ラティアの元だ。

オリビエは女王の住まいへと全速力で走った。
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