ラティアの月光宝花
そ、んな……!

ミカが苦痛に顔を歪めてセシーリアを見上げた。

「アイリス様が……サージアの兵士に連れて行かれて……」

ただでさえ激しく脈打つ鼓動が、痛いほど速度を増す。

「ミカ。お母様が何処に連れて行かれたか分かる?」

「申し訳ございません……!そこまでは……。ですがアイリス様は朝からお身体の調子が良くなくて……私が付いていながら……申し訳ございません……」

そこでミカは息絶え、力なく腕を床に落とした。

「ミカ!ミカ!」

ドクドクと流れ出たミカの血の赤さに、セシーリアは絶叫した。

「ミカーッ!!」

嫌よ、嫌!

ミカはお母様付きの女中長だったけど、昔はよく私に花飾りの作り方を教えてくれて……。

「ミカ……ミカ……ごめんなさい……!」

ヨルマが、ミカの手を握るセシーリアに顔を寄せた。

もう諦めて進まなければならない事を、ヨルマは教えているのだ。

「分かってる……行きましょう、ヨルマ」

噛み締めたセシーリアの唇に、血が滲んだ。


****


オリビエは城内に入り込んだサージア帝国の兵士を討ちながら、目まぐるしく考えを巡らせた。

まだ城内にはサージアの兵しかいない。

伝令係が言うには、イシード帝国のカリム皇帝は国境付近で兵を挙げたとの事だった。
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