ラティアの月光宝花
カリムは最初からこのラティアに侵攻する事になるやも知れぬと、国境付近の山々に軍を忍ばせていたに違いない。

いや、 恐らく侵攻する気でいたのだ。

我が国がセシーリアの誕生大祭典に沸き立ち、自らもその中で祝杯をあげている時には既に兵の配備を済ませていたのだ。

そしてラティア国王ロー・ラティアにセシーリアとの結婚を断られ、市民の反感を買い、屈辱と怒りに燃えてこのラティアに牙を剥いた。

イシード帝国はラティア帝国の南東に位置していて、早馬でも首都エルフまでゆうに数十日はかかる。

…父上の事だ。既に主要都市の総督達には敵軍が王都に攻め込んでくるのを全力で阻止せよと指示を出したはずだ。

今ごろ地方都市に点在しているラティア軍も、向かってきたイシード帝国に応戦し、死闘を繰り広げているに違いない。

ならば出来るだけサージア軍を叩き、この王都エルフを守らなければ。

「オリビエ様!たった今確認しましたところアイリス様の屋敷は既に落ちております!セシーリア様はアイリス様の行方を探してたった今別宅から出て行かれました!」

なんだと?!サージアは王妃を……!

「オリビエ!」

その時、馬に乗ったマルケルスが後方からオリビエに声をかけた。

「我がラティアの兵がどうにかサージア軍を制圧し始めたぞ!敵は残りわずかだ」

城内には敵兵に襲われた際、攻め込んだと思わせて実は追い込み、一網打尽にする《招きの間》と呼ばれる狭間があらゆる場所に存在する。

きっと近衛兵が巧く招きの間に誘い込み、サージア兵を叩き潰しているのだろう。

「アンリオンはどこだ?!」

「アイツは近衛兵十番隊と、正門を守っている。敵軍の侵入を防ぐために」

「マルケルス。恐らく王と俺の父上は軍議塔だ。行ってお救いするぞ!そそのかされるしか能のないサージアに後悔させてやる!」
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