ラティアの月光宝花
「乗れ!イシードへ帰るフリをしたカリムが王都へ引き返してくるぞ。時間から考えて今はエルフの南……ナイシアの都辺りだろう。国外とラティアの内部から我が国の主要都市を挟みうちで襲う算段だ」

……このラティアは、北側をリズの森と深い谷に守られ、南は切り立った岩肌の目立つ岩山が何マイルも広がっている。

まさかリズの森の更に北にあるサージアが、それらを越えこの城に侵入してくるとは。

しかもセシーリアの誕生大祭典の最終日、興奮冷めやらぬ中にだ。

マルケルスの脳裏に、気弱そうなサージア帝国の王子シドの顔が蘇った。

「覚えてろよ、サージア」

口に出さずにはいられなかった。


****


「セシーリア姫!軍議塔へはお入りにならないでください!」

急に腕を掴まれて、セシーリアは立ち止まった。

弾かれたように振り仰ぐと、ザックリと頬に剣の傷を負った近衛兵であった。

「あなたは確か……」

見覚えがあった。

いつの日だったか、オリビエとアデルのスティーダ(両刃の長剣)の練習試合を見に行こうとした時、馬を貸してくれた近衛兵ディオだ。

「ディオ、止めないで!お母様が、お母様が連れさられたの」

「……私は軍議塔にこれ以上敵兵を入れないよう闘っておりましたが、女王はこの中にはいらっしゃいません。もしかしたら城外に」

その時、ヨルマが何かを知らせるかのように甲高く鳴いた。
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